12終焉の宴(朝月)


「柏原。」
「何だ。」


柏原は復活したようだ。
さっき先生と話をしていてショックを受けていたが、今は大丈夫らしい。


「あのな「ポテチの恋人は俺だ」
「は?」
「ポテチの恋人は俺だけなんだ。誰にも渡さない!!」


おぉ。『ポテチは俺の恋人』宣言。
しかし柏原、お前は変人だ。


「あ、どうしたんだ?」
「いや…本を盗んだ犯人がわかった。」
「何っ!?」
「1年生、しかも女子だ。」
「そうなのか!ようやくポテチ図鑑に会えるんだな!あぁ、俺の愛しきポテチ…。」


はい、そこで妄想ストップ。


「そこで、だ。犯人は1年生の女子だ。
しかも図書組の好きな本を全て知っているということは、つまり水林と少なくとも知り合いであることが推定される。
さらに、知り合いである+犯人である=水林と”今”一緒にいる&水林に何らかの危害を加える可能性がある。
だから柏原、水林を一緒に捜すぞ」


・・・…。
柏原は無言。
あ、でも立ち上がった。


「朝月、行かないのか?」
「行くよ?」
僕等2人は教室を出た。
出た途端に笑い声がしたのは…空耳だな、きっと。


1年生の教室へ向かう。
学校は広いから、1年生の教室まではかなり歩かなければならない。
降りる。歩く。降りる。


休み時間だからか、皆が騒いでいる。
聞こえるのは人の声。声。声。
その時。「ガタン」
p 異質な音が、誰もいない筈の教室から響いた。


柏原がすぐに扉を開ける。
教室の中には、
まるで人形の様に床に横たわっている水林と。
まるで映画のセットの様に崩壊した机。椅子。ロッカー。
そして崩壊した机たちが作っている丸舞台。
その中心に立っている希蝋彫刻はこう名乗った。


「白鐘と申します。以後お見知りおきを」


最初に動いたのは柏原だった
「何やってんだテメェ!」
強烈な蹴り、だが?人形はいとも簡単によけた。
唖然とする柏原。白鐘はその隙を見逃さなかった。


風を纏って飛んでくる拳、柏原は間一髪避ける。壁には大きな穴があいた。


「こ…怖ぁ……」
何者なのだろうか。取り敢えず一般人でないことは確かだ。


僕は死者を出したりしたくないので、水林を蹴りが届かない隅へ引きずっていく。
水林は意外と軽かった。


教室の隅で僕は水林と一緒に戦闘シーンを見る。
まるで映画の様だ。いや、むしろ美人vs男で柏原が悪いやつみたいだ。
このシーンは何かを髣髴とさせる。・・・何だっけ。ああ、「黒蜥蜴」だ。
あの明智小五郎vs女盗賊のアレ。実際闘ってたかどうかは忘れたけど。
「おーい。柏原―。頑張れー。」
「他人事かよ」
他人事です。武闘系は君に任せたのだよ。


緊張感のない会話。一瞬白鐘が気を抜いた気がした。
その瞬間。
柏原の足払いが白鐘に掛かった。
白鐘はゆっくりと倒れた。


白鐘の方から啜り泣く声が聞こえた。
次の瞬間。
「ご……」
「「ご?」」
「御免なさい、御免なさい!あなた達が羨ましかっただけなんです!
好きな本について話したり、笑ったり出来るあなた達が!」


そう云うと、目が赤くなったビスクドールはこちらをむいた。
涙らしき水が頬をつたっている。



「私いつも一人ぼっちで…語り合える仲間が欲しかった!だから…だから……」
そう云うと白鐘は泣き顔で微笑んで、
「仲間にして下さいますか?」
「駄目だよ、嘘つき君。嘘はもっと上手くつかなきゃ。」


彼女は傷ついた様な顔をした。


「嘘じゃないです!」
「それじゃ君、名前は?あ、下の名前です。」
「白鐘…翼で「ほらやっぱり。嘘つき君」
「何故です?本名ですよ。」
「君の落とした生徒証にほら、書いてある。”J1−2白鐘碧” 違うかい?」


彼女は諦めたように肩を落とした。
「…駄目かぁ。」
「何が」
「せっかく“演技”とやらをしてみたのに。
“皆の中に自分から入ろうともしないくせに入れてもらえなくって悲しくて皆に逆にむかついて反撃する人”だったかな?
今回は上手くいったと思ったら……駄目なのね。残念。」
彼女は僕らの目の前で目薬を軽く振った。


そういえば水林はいつ起きるんだ。


柏原が叫んだ。
「お……俺の愛すべき『ポテチ図鑑』を早く返せ!」
「“ポテチ図鑑”とやらはそこのロッカーに有りましてよ。」
そう云われると柏原はロッカーを漁り始めた。


「云っとくが柏原。そこにはポテチ図鑑は無いと思うよ。ねえ白鐘さん。」
「ええそうですね。」


柏原が萎んだ。


「ポ…ポ……テ……チ・・・・・・・・・」
柏原は力尽きた!
朝月と白鐘は“無視”をした!

「えっと……それで、動機は何が良いのかな?」
「何でもよろしいですわ。当初の目的でも、後付けでも。適当でも。
あ…でも今私の一番お気に入りの言い訳はやっぱり『つまらない日常を打破したかった』ですね。」


つまり何の意味も無くやった訳か。


「これからどうするの?」
その問いに白鐘は答えた。


「そうですね……水林さんや貴方達が噂を広めたりすれば別ですが、一応この学校に居続けますよ。こんなことで退学になるのももったいないですし。
栄光ある私の前途がこんなことだけで汚いものに変わってしまうのは我慢なりません。
ま、もし噂が広まったら……転校でもしましょうか」


日の光が崩壊した机の上で揺らぐ。
カーテンがふわりと彼女を隠した。


「まあ、僕は噂なんてものの対照にいるからね、別にそんな物にわざわざ関わろうとは思わないし、広めようとも思わないけど。
何なら今倒れている2人にも聞いてみたらどうだい?
ちなみに柏原―今君が戦った人だね―はポテチと囁けば起きる。
水林はアボカドか王子様で起きるんじゃないのかな?試してみる?」
「……いえ、遠慮しておきます。」


白鐘、顔が引き攣ってるよ。


「ああ、そうだ。本は何処に隠したんだい?」
「図書室の未処理の箱に。木の葉は森に隠せと云いますしね。」


古の日本人の知恵は素晴らしい。


「じゃあそろそろ此処を出ようか。おっと、片づけは頼むよ」
「…頼まれました。」


白鐘は僕に背を向けた。
つややかな黒髪が日の光を浴びて、とても綺麗だった。


「と。」
この2人を起こさないと。
まずは柏原から。


「…ポテチ」「ポテチっ!?我が恋人ポテチは何処(いずこ)へと!?」
素晴らしきお目覚めですね、柏原さん。
大声が怖いです。白鐘さんの背中が震えてます。明らかに笑われてるよ柏原。


次は水林。
「アボカド……」
「ア…ア…アボカド!?アボカド!はぅっ、お、お、王子様なのですぅ!王子様がアボカドを持っているのですかっ!?
最強コラボなのですっ!はぅぅ……」


白鐘が引いた目で水林を見た。うん、それが普通の人間の反応だ。


「そろそろ掃除なので帰るよ水林&柏原。白鐘さんは先生が来るまでにその部屋の片付けをしておいて下さい。お願いします。
それでは、もう会うこともないでしょう。」
「それどころか、二度と会いたくありませんね」
「そうだね」


僕等は退廃的な教室に背を向けた。
扉を閉める。
中がめちゃくちゃな教室は、外見だけは立派だった。


さて。図書室にでも4人を集めて、事の顛末をお教えしよう。






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