8耐えろ、誘惑に(工藤)




お久しぶりです、こんばんは。
私、周はイアンに会うため舞台前にやって来ました。
途中、どこかの町の盆踊りをしているモアイの王子様を見ましたよ。
イアンやその隣でヴァイオリンを弾いている男の方やその他大勢の吹奏楽部の方々が奏でるワルツと違和感の無い踊り……。
案外、リズム感がよいのかもしれませんね彼は。



「イアン、もう演奏は終わりまして?」
演奏が終わったのか、今休憩時間なのかは分かりませんが、
舞台下で先ほどまでヴァイオリンを弾いていた方としゃべっているイアンを見つけました。

「あっ、周。」
こちらを向いたイアンにあわせ、隣の方もこちらを向きました……のですが。
見たことのない顔ですね。
イアンは基本的に人見知りで doesn’t have friends ですから
イアンが話せるひとは私は全員知っていたと思っていたのですが。



「周、こっこちら僕の友達の“五木葵”だよ。」
……。
「薄、誰だ。」
「あぁ、葵。こっちは“工藤周”。僕の幼なじみだよ。」


……。
「……イアン、あなた友達なんていつのまに。」
私、あなたには一生無理だと思ってましたのに。
驚きすぎて、固まってしまいましたよ。

「五木葵だ。葵で構わない。よろしく。」
「えっええ。工藤周です。よろしく葵さん。」
まさか、私の生涯の中でイアンの友達と手をつなぐ日がくるとは。
そうでした、本題に入りましょう。



「イアン、演奏が終わったら一緒に踊りませんか。」
「えぇっ!!」
「私、今まで放送部の手伝いをしていましたから一曲も踊っていないのですよ。
けれど、せっかくでしたら一度くらい踊りたいですし。嫌ならいいのですけれども。」
とはいっても断られたらキレそうですね、私。プライド的に。

「いや、大丈夫。めちゃくちゃ大丈夫。踊ろ、一緒に踊ろ。」
……。
私、そんなにテンションの上がること言いました?



「ミトメーーーーーン!“ハク”ハ ピアノ、“ハク” ハ ピアノニゴザル。」
「フッ、フリードリヒ。」
上空からまた人外のモノが来ました。
あぁ、もうこれ以上カオスな世界にしないで下さいまし。


「そうだぞ、薄。お前次の曲は出番だろ。あぁ周。こいつはフリードリヒだ。よろしくしてくれ。」
黄色のモコモコがこちらを向いて
目が合いました。


「ピピョーーー!!ソナタ名ハ。名ハナンデゴザル。」
かっ。
「周ですよ。」

「周―――――――!!オ慕イ申シアゲマスルーーーーーー。」
可愛い。

全速力でこちらへ飛んでくるモコモコ。
可愛い……、なんですのこの愛らしさは。


「某、フリードリヒ・C・ケネディにゴザルヨ。」
斜め45度から見つめてくる愛らしさ。
「そっ、そうですの。略して“フリカケ”ですね。」
けっ、けれどここで抱きしめてしまっては
黒天と同じような人間になってしまう気がします。

「フリカケ?フリードリヒ フリカケ スッキー。アマネモスキー」
「くっ。」
そうして誘惑にたえる私は

「愛らしい光景だな。」
「本当ね。」
という会話など気づきませんでした。




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