5桃源郷にようこそ(イアン)


林を抜けると、そこは桃源郷でした。
「ってか、ここはどこだーーーーー。」


ハツによく意味の分からない仕事(雑務)を押し付けられた僕は、ただいま学校の未知の領域に侵入しております。
途中にはなんだかよく分からないポテチの唄があったり、
「生徒会ではそのころ……」があったり、
なんだか幕間を勝手にされてた気がするけど、
僕はちゃんと1歩1歩、歩んでたから!


よく分からない「ピカチュウ」やけに「か」の部分のセリフが多いのとかにそうぐうしても堪えてたから!
僕を忘れないでっ!!
I’m here だから、I am living だから!!!


(お疲れのようですね、光矢殿の弟君。)
ん、なんだか声が聞こえた。どこだろう。
(ここです、あなたの足の下の池です。)
「池かぁ。ってえぇ!」


僕の眼下にはありえないものがあった。
確かに今まで林の中を歩いていたのだ。
だが、今僕の目の前には桃の花が周りに咲き誇った、美しい湖がある。

「そんなっ、まさかここは……“桃源郷”っ。」
(現世の世に生きる者の中にはここをそう呼ぶ者も確かにいます。)
「“桃源郷”がこんなところにあったなんて……。ところで、君は誰だい。」
(おっ私としたことが。私はこの湖にいる生き物の中で最も長く生きております。
“長老”と申します。光矢殿の弟君。)


声とともに湖からなにかがあがってきた。
この容姿……まさかっ
「シーラカンス!」
日本にいたんだっ、てか何年前からあるんだ“桃源郷”。
(現世の世ではそう呼ばれているのですか。“シーラカンス”。いい名ですのぉ。)


しみじみしてるーーーーーーーーー。


(光矢殿には私どもの曾々々々々々々々……孫がお世話になっております。)
「へっ、光矢が?」
光矢……ってあれしかいないよね。
あの黒天しかいないよね。
なんだ、お世話って。食べたのか、まさかeatしたのか。
(いえいえ、きちんと世話をしてくださるようで。
相手は鯉だというのに親友の契りまで結んでくださったとか。
今ではめったに見られない、心優しい人間ですぞ。光矢殿は。)


……ダメだ。イメージできないぞ。
あの黒天が、黒々………々しくて悪魔どころではなく魔王も越え羅王が鯉と親友?


「やっ、それなんかの間違いですって。それ僕の知ってる光矢じゃないですよ。
もし、光矢だとしたらなにか裏がありますって。」
(いいえ、光矢殿は素晴らしい人ですぞ。
二十八朗に“うなギー”というはいからな名前も付けてくださりましたしの。)


*はいから[名詞][形容動詞]
西洋風でしゃれていること。西洋風をきどること。
またそのような人。


「やっ、“うなギー”はいからではないと思いますよ。むしろシーラカンスの方が、………」
(そうかの?それは嬉しいことで。とにかく、光矢殿はお優しい方ですぞ。
あなた様とは何やらうまくいってはいないようですが、
光矢殿は弟殿を大切に思っていますぞ。)


……大切?
(そうです、光矢殿はあなた様を愛しておられるのです。)
……愛?
………
………………
「ゴホッ、ドタンッ。」



イアン……
……イアン……
「おきまして?イアン。あなた学校の森の前で倒れていたんでしてよ。
あんなところになんのようだったのですか?」


目が覚めるとそこはベッドの上で、はたして“桃源郷”が本当にあったのさえ分からなかった。


「そういえば……」
「なに?」
「イアン、あなたずっと寝言を言ってたのですよ。」


………愛が分からない………


「って何なのですか。あなた、愛なんてものを求めてたんですか?」
「やっ、僕も知らないよーーーーーー。」



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