松乃くんの家庭菜園


「やなぎ、俺はさ、何を植えたっけ、この青い鉢植えに。」
「にょー。確かチューリップだったのだ。我輩も白い鉢植えに植えたのだ。」
「そうだよな。でも兄ちゃんの目の前にあるこの青い鉢植えにはトマトがなってる気がするんだ。」
「そうなのだなー。なってるのだなーー。」
「しかもフラワーロッ○ンロールみたいに踊ってる気がするんだが。」
「そうなのだ。踊ってるのだにょーーー。」


〜松 乃 君 の 家 庭 菜 園〜


小1の時。思えばあれが始まりだったのかもしれない。
「生活」の授業の時に植えたおれのヒマワリの鉢には見事タンポポがはえた。
小2、アサガオは『ジャック・オゥ・ランタン』的な顔のカボチャになった。
小3、ビオラを植えたら木苺がはえた。しかも味はメロンだった。


それ以後もおれの武勇伝は続いてゆき、一番ひどい時ではカラスノエンドウがラフレシアになった覚えがある。
つまりだ、ようやくすると「俺は植物を育てるのに才がない」というか……。
むしろ一回もまともに育ったことがないというか………。


「松乃、他には何を植えたのだ。」
「今年はナスとトマトとミカンだ。」
「変なものができるのが分かってわざわざ……。」
「いや、だって食えるものもなったりするし………。頼むから憐みの目を向けるな。」


ちなみに、やなぎが久々に俺とまともに話してるのは、母方の叔父が遊びにきているからである。


何か頭にGのつく黒くてテラテラ光るなんか丸い物体<俺<叔父


というのがやなぎの嫌いな順序だそうだ。
要するに俺よりも叔父が嫌い。
叔父のいる居間にいるよりかは、まだ俺の家庭菜園をけなすほうがよいそうだ。


「で、ナスはどこに植えたのだ。」
「あぁ、あっちのプランターだ。」
「おぉ、ということはあれなのだn(ピタッ)」
あれ、おかしいな。
ナス……のはずだよな……。
なんかキノコ生えてんですけど……。
しかも「キノコッコッコーノコゲンキナコー」的な弦楽四重奏やってるし……。
何かメッチャ上手いんだけど。


「なぁ、やなぎ………。」
「何なのだ、松乃。」
「トマト……確認するか?」
「いや、よしとくのだ。」
「……うん、そうだな。」






「そういえばなのだな、あの夏休みに育てていたヒマワリはどうしたのだ。」
「枝豆とナスの成れの果て」
「…………」
「…………」
「うん。そっか。成れの果て……なのだな。」
「そうだ。成れの果てだ。」



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